近年、ソーシャルビジネスという言葉を聞く機会が増えてきた。
ソーシャルビジネスとは、主に本業を通じて社会的課題をビジネスの中で解決していこうとするビジネスのことで、事業性を確保しているという点で、いわゆる企業の純粋な社会貢献活動とは異なる。
事業性を確保すると言っても、通常の営利ビジネスとは少し違った側面はもちろんある。最大の違いは、利益を得ることが第一の目的ではなく、社会課題の解決が目的であるという点である。
もちろん企業である以上、利益を考えなければ持続性が担保できない。ソーシャルビジネスとは、この二つを両立させるビジネスとも言え、単純に利益を上げるよりも難易度は高くなる。
そんなソーシャルビジネスを展開する上で重要なことは、様々なステークホルダーとWIN-WINの関係を構築しなければビジネスモデルがそもそも作れないということ。
近年の社会課題は複雑で、一社でリスクを取ってさらに利益を上げられるほど簡単ではない。したがって、公的な支援も含めた様々なノウハウを持ったステークホルダーと協働しなければならないことになる。これら、独特のビジネススキームをきちんと設計できるかがソーシャルビジネス成功の鍵となっていく。
このソーシャルビジネスの取り組みを行っている会社の中でも、世界的にもその存在が知られている「株式会社 雪国まいたけ(以下、雪国まいたけ)」の事例を考えてみたい。
雪国まいたけは、資本金約16億円で新潟県魚沼市に本社を持つ、「まいたけ」や「えりんぎ」、「もやし」などの生産販売などを行っている会社である。2011年より世界の最貧国の一つと言われるバングラデシュで「Mungbean Project(緑豆プロジェクト)」というソーシャルビジネスのプロジェクトを展開している。
このプロジェクトの推進母体は、雪国まいたけとノーベル賞受賞者であるムハマド・ユヌス博士率いるグラミングループのグラミン・クリシ財団、九州大学との三者により設立された合弁会社「グラミン雪国まいたけ(Grameen Yukiguni Maitake Ltd. 以下、GYM)」。
GYMの特徴は、ユヌス・ソーシャルビジネスのポリシーに基づき、利益配分は行わず、その利益は次の社会的な事業に回していくというやり方をとっていることである。
そのようなGYMが手がける緑豆プロジェクトは、バングラデシュと日本の双方、そしてこのビジネスに関わっているすべての方々にとってWIN-WINのビジネスモデルとなっている。
まず、バングラデシュにとって一番のメリットは雇用創出。本プロジェクトでは、豆の製造者である契約農家、できた豆を選別する作業者、そしてエンドユーザに売る販売者という三者に対し雇用の機会を提供している。
日本にとっては、安定的供給、価格上昇、安心安全という3つのリスクを回避できるという点が重要である。緑豆は発芽すると「もやし」になるが、この緑豆の約90%は中国からの輸入に頼っている。しかし価格は4年前と比べて2倍以上も上がっており、この価格はさらに上昇していくと予測されている。
このまま中国からの輸入に頼っていると、私たちにとって安価で栄養豊富な野菜の代表格であるもやしは高価な野菜になってしまうかもしれない。仕入れ先の多様化は日本にとって重要な問題である。
そして、近年中国などで特に問題になっている農薬など、食べている野菜は安全なのか、という点においても、雪国まいたけが行っている「雪国まいたけ安全システム」が活用できることから安心できるシステムが構築されている点も重要である。
本プロジェクトの責任者で雪国まいたけの上席執行役員である佐竹右行氏は、「さらに日本の優れた農業技術をバングラデシュの農民に伝え、量と質の向上も図っています。農村地域で付加価値が高く高価格の作物を農民が栽培することで現金収入も増えます。現在、約7,500人の契約農民が雇用され、約1,500トンの収穫があり、そのうちの約300トンが日本への輸出向けです。」と語られている。
単に貧困国であるバングラデシュを先進国である日本がサポートするのではなく、日本にもその成果物を輸出してもらうことで、お互いの課題を双方が持っているリソースのトレードによって解決するというWIN-WINの関係を作り、ビジネスとして成立させている点は素晴らしい。
このようなソーシャルビジネスの価値は今後、さらに社会的に注目され評価されていくだろう。
そして、それは会社の社会的価値を上げると共に、その組織の持続可能性も上げていくものである。
そういう意味においては、単なる企業の社会貢献とは一線を画している。
この雪国まいたけの取り組みは、これからの日本企業が目指すべきビジネスモデルの先駆けとして学ぶべき点が多々ある事業である。